漏水トラブルの原因、本当に「防水層の劣化」だけ? 元請けが見落とす3つの隠れた要因

施主様からの一本の電話。「先月、工事してもらったばかりなのに、また同じ場所から漏れている」 これこそ、大規模改修の元請け担当者様が最も恐れる瞬間です。


プロジェクトを無事に完遂させ、施主様にもご満足いただいたはずだった。それなのに、なぜ。 「補修の方法が間違っていたのか?」「それとも、別の場所に原因が?」 一度、漏水が再発してしまうと、施主様からの信頼は揺らぎ、元請けとしての管理能力を問われる事態になりかねません。


原因がはっきりと分からないまま、再び補修工事を行うことへの焦りと不安。 実は、こうした「漏水の再発」トラブルの根本には、施工不良以前の問題として、「原因の特定ミス」が潜んでいるケースが非常に多いのです。


雨漏りや漏水は、その現象が起きている場所と、水が浸入している原因箇所が一致しないことが多々あります。 この記事では、なぜ漏水トラブルは再発しやすいのか、その根本原因と、元請け担当者様が不安を解消するために知っておくべき「正しい原因の特定方法」について、専門家の視点で解説します。




■漏水トラブルの「よくある原因」。元請けが知っておくべき3大要因

まず、漏水を引き起こす代表的な原因として、元請け担当者様が把握しておくべき3つの要因を整理します。多くの場合、これらの要因が単独、あるいは複合的に絡み合って発生しています。



・要因1:防水層そのものの劣化


最も一般的で分かりやすい原因です。屋上やバルコニーの防水層が、紫外線、風雨、温度変化に長年さらされることで物理的に劣化します。 シート防水のつなぎ目が剥がれたり、塗膜防水にひび割れや膨れが生じたりすることで、そこから水が浸入します。また、防水層の「端末部(端の部分)」の処理が甘いと、そこから水が入り込むケースも目立ちます。



・要因2:外壁やシーリングの不具合


屋上防水層には問題がなくても、外壁(コンクリート)のひび割れや、窓サッシ周り、外壁パネルの目地を埋めている「シーリング」の劣化によって、建物内部に水が浸入するケースも非常に多く見られます。 特にシーリングは耐用年数が防水層より短い場合もあり、痩せたり切れたりした隙間が、雨水の格好の入口となります。



・要因3:設備貫通部やドレン(排水口)周りの不具合


屋上には、空調の室外機や配管、アンテナの基礎など、防水層を貫通する設備が多数設置されています。これらの「貫通部」と防水層の取り合い(接合部)は、構造が複雑なため施工不良が起きやすく、漏水の原因箇所となりやすいポイントです。 また、雨水を集めるドレン(排水口)周りも同様に、防水層の端末処理が集中するため、施工の精度が問われる場所です。




■なぜプロでも原因特定を誤るのか? 「水の道」を見抜く難しさ

上記の3つの要因を知っていても、なお漏水が再発することがあります。 「防水層の怪しい部分も、外壁のシーリングも補修したはずなのに、なぜ止まらないのか?」 それは、漏水の原因特定が「プロの目」をもってしても極めて難しい作業だからです。


漏水トラブルで最も厄介なのは、「水の出口(=漏れている箇所)」と「水の入口(=浸入している原因箇所)」が、必ずしも一致しない点にあります。


水は、コンクリートのわずかなひび割れや、鉄筋とコンクリートの隙間など、予想もつかない「水の道」を伝って移動します。例えば、屋上の端から浸入した水が、躯体内部を数メートル横に移動し、階下の全く関係のない場所にある照明器具から漏れ出してくる、といったケースは珍しくありません。


この「水の道」は目視では決して分かりません。 そのため、目に見える「漏れている箇所」の真上だけを補修しても、全くの見当違いである可能性が高いのです。


さらに、原因が一つとは限りません。屋上の防水層の劣化と、外壁のひび割れの両方から水が浸入し、内部で合流して漏水を引き起こしている、といった「複合的な原因」も多く、調査の難易度をさらに引き上げています。




■元請けが陥る「危険な判断」と、漏水を止められない業者の特徴

漏水の「水の道」を見抜けないまま工事を進めることは、元請け担当者様にとって大きなリスクとなります。特に、施主様からのプレッシャーや工期への焦りから、以下のような危険な判断を下してしまうと、問題はさらに悪化します。



・失敗例1:目視だけで判断し、安易なカバー工法を選ぶ


最も陥りやすい失敗です。漏水箇所周辺を目視で確認し、「おそらくこの辺りが原因だろう」と見切り発車で上から新しい防水層をかぶせる(カバー工法)判断です。もし、根本的な水の入口が他にある場合、カバー工法では浸入を防げず、新しい防水層の下で水が回り続け、漏水は止まりません。



・失敗例2:「とりあえず怪しい箇所を全部補修する」という場当たり的な対応


原因が特定できないため、「屋上も、外壁も、怪しいところを全部補修しましょう」という対応です。一見、万全に見えますが、これは根本解決になっていないばかりか、不要な工事費を施主様に負担させることになります。それでも漏水が止まらなかった場合、元請けとしての信頼は完全に失墜します。



・失敗例3:漏水調査(散水試験など)を面倒くさがり省略する


漏水の原因を特定するには、実際に水を撒いて水の浸入経路を突き止める「散水試験」や、赤外線サーモグラフィーなどを用いた専門的な調査が必要です。しかし、これらの調査には手間とコストがかかります。これを面倒くさがり、「経験と勘」だけで施工しようとする業者に任せてしまうと、漏水再発のリスクは極めて高くなります。




■漏水を確実に止めるために。元請けが業者に求めるべき「3つの能力」

では、施主様からの信頼を守り、漏水トラブルという難題を確実に解決するためには、どのような業者をパートナーとして選ぶべきでしょうか。それは「施工力」以前に、以下の3つの「診断・調査能力」を持つ専門家です。



・能力1:「防水一級技能士」など、専門知識と経験を持つ有資格者による診断力


漏水の原因特定は、経験則だけでは限界があります。建物の構造、防水の工法、材料の特性など、幅広い専門知識が必要です。「防水一級技能士」のような国家資格を持つ専門家は、これらの知識に基づき、論理的に原因を絞り込むことができます。有資格者が在籍し、診断にあたっているかは重要な判断基準です。



・能力2:防水層だけでなく「外壁・シーリング」まで見れる総合的な調査力


前述の通り、漏水の原因は屋上だけとは限りません。防水専門であっても、外壁のクラックやシーリングの劣化状態まで含めて建物全体を総合的に診断できる「調査力」が不可欠です。もし、業者にその知見がなければ、本当の原因(=外壁)を見落としてしまいます。



・能力3:調査結果を元に、最適な工法を提案できる技術力と「自社施工体制」


正確な調査結果が出たら、それを確実に施工に反映させる技術力が必要です。原因が特定できても、施工がずさんでは意味がありません。調査を行った担当者と、実際に施工する職人との連携が密な「自社施工体制」が整っている業者であれば、診断結果に基づいた高精度な施工が期待できます。


防水工事やシーリング工事に関するご相談は、防水・シーリング工事のページをご覧ください。




■漏水トラブルの解決は「原因特定」が9割


防水改修工事、特に漏水が絡む案件において、その成否は「施工」の前に、いかに正確な「原因特定」ができるかにかかっています。実に、9割はここで決まると言っても過言ではありません。


「おそらく」「たぶん」といった曖昧な診断に基づく場当たり的な補修工事は、必ず失敗し、無駄なコストを発生させ、最終的には元請け担当者様と施主様との信頼関係を傷つけます。


もし今、漏水トラブルの原因が分からず不安を抱えていらっしゃるなら、まずは「なんとなく」で工事を進めるのではなく、建物の状態を正確に把握する「専門家による診断」を受けることが、不安を解消する唯一の、そして最短の道です。


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